居直り日記

深く考えずに書く

【映画】「赤い殺意」| 「なんでこんなに不幸せなんだろう私って」

なんか凄いものを見てしまったという気がしている。びっくりした。

2時間半、決して「面白くて時間を忘れてしまう」ような映画ではない。正直、いつまで堂々巡りを繰り返すんだこの人(貞子。主人公。演じるのは春川ますみ)は…と、疲れさえ感じてしまったし。

どこかで夫(吏一。演じるのは西村晃)と義母に一矢報いてくれるんじゃないか、しがらみを捨てて幸せになってくれるんじゃないかと思って見続けたのだが、最後までそういう展開にはならないのだった。

「したたかに変貌を遂げていく」のか?

「なんでこんなに不幸せなんだろう私って」劇中、貞子は繰り返し自問する。なんで、って、そりゃ幸せになろうという意思が弱いからでは?昔の日本の田舎という、圧倒的に女性に不利な環境に囲まれているのは確かだけど。

もちろん彼女にも苦悩や怒り、悲しみはある。が、決してそれをあらわにせず抑え込んでいるし、不必要な場面で笑顔を作ったりする(そして、「あれ?私、今なんで笑ったんだろう…」と心の中で思う)。自分の人生を生きていない感じ、なんとなくぼんやりとした感じが最後までつきまとう。

Amazon他、この映画の紹介文は、貞子が「いつしかしたたかに変貌を遂げていく」という論調のものが多いのだが、え?そうなの?と疑問。

確かに、息子の戸籍問題(貞子の息子(まさる)が戸籍上は義母の息子ということになっていたこと)を片付けるために裁判を起こしたことと、吏一の不倫相手に取られた写真についてシラを切り通したことについては、まあ多少は強くなったと言えなくもない。

が、義母から裁判を起こしたことをなじられただけで「今からでも取り消せるんだったら…」と弱腰だし、相変わらず威張り散らす吏一に耐えているし、とても「したたかに変貌を遂げていく」ようには見えない。

ラスト、内腿に蚕を這わせているのも、少女時代と変わっていない。

突き放した描写から生まれる滑稽さ

ストーリーだけ見れば暗くてやりきれない作品だが、音楽の使い方(貞子が回想するシーンで流れるぼいーん、ぼいーんといった効果音)や、貞子の描き方があまりにも突き放したものなので、独特の滑稽さがあって、それがこの映画をより魅力的にしている。

例えば、貞子は、死にたいと思っているときにも食べることを忘れない。「死のう」と布団の中で考えていた時、なぜかクッキーみたいなものを食べている。自殺を考えていた時、台所で汁かけ飯みたいなものを掻き込んでいる。「死ぬんじゃないのかよ」という感じである。

首吊り自殺が失敗に終わって、踏み台が壊れた時も、泣きながら手は踏み台を修理している。ラスト近くの「なんでこんなに不幸せなんだろう私って」と嘆くシーンでは、美容院でパックしている間抜けな顔が鏡に映し出される。

他にも、有名な列車でのもみ合いシーン(うわーーーー電柱にぶつかるーーーーーーと見ていてほんとに冷や冷やした)や、吏一の不倫相手が雪の上をズッサーーーと滑り落ちるシーン、同じく吏一の不倫相手が車にいきなりはねられるシーン(このシーンの唐突さ、容赦のなさが凄い)、貞子が夢の中で落ちていくシーン、貞子が村に来た時に木の陰で井戸端会議をする四人の老婆、おそらく地元の人以外にはヒアリング不能な老婆たちの方言による語り(呪術めいて聞こえる)など、視覚、聴覚に訴える、記憶に残る場面がたくさんある。

で、なんで私は「凄いものを見た」と思ったのか?

映画をつらつらと回想しながら思ったことをダラダラ書いたが、読み返してみて「で、何が凄いの?」という感じである。なんか、映画を見たあとのじわじわくる「なんか色々凄かった…」という自分の気持ちが全然うまく表せない。

とりあえず、今村昌平の映画は全部見たいと思ったし、藤原審爾の原作も読んでみたいと思ったし、この映画ももう一回見たいと思った。見ても全然いい気分にはなれないが。

ところで、Wikipedia英語版では、タイトルは “Unholy Desire” もしくは “Intentions of Murder” とある。

en.wikipedia.org

そしてplotは

The film tells the story of a dull, plump housewife living in poverty with a common-law husband. After being raped by a thief, she is repeatedly accosted by him as he falls madly in love with her. Stuck between her adulterous, unloving husband and the rapist she struggles to find happiness.

となっている。struggles to find happiness というより、とりあえずやばい状況から逃れるのに必死、という感じである。