居直り日記

深く考えずに書く

「外国語を学ぶための 言語学の考え方」黒田龍之助 | 著者の語学愛、言語学愛が良い

著者の黒田龍之助氏は、NHKの語学講座に出演していたこともあるそうで、私は知らなかったのだが、語学業界(?)では有名な人らしい。

専門はロシア語やチェコ語ポーランド語などの「スラブ諸語」と、言語学。この本は、外国語学習者が「言語学の考え方に触れるための読み物」ということで、素人が読んでも楽しめる言語学のあれこれが語られている。

外国語の中には、名詞に女性、男性、中性がある言語があるというのは、学生時代に第二外国語でとったドイツ語で知ったような気がする。ちなみにドイツ語は全く理解できなかったが、私はちゃんと単位が取れたのだろうか。もしかして落としたのかもしれない。そのくらい記憶がない。が、その、名詞に性があるという事実は非常に面白いと思った。面白いけどめんどくさすぎだろ、とも。

女性名詞と男性名詞以外にも、よくこんな複雑なことできるなと思うのが、名詞の「格変化」である。文の中で、名詞が主語なのか目的語なのか等、役割で名詞が変化する(!)というやつである。というか、ドイツ語にも格は4種類あるらしい。全っ然覚えてないけど。

へー、と思ったのが、「アルファベット」という語の正しい意味である。ああ、abcのことでしょ、と単純に考えていたのだが実はそうではなく、「原則として一つの音が一つの音に対応する体系」のことを指すのだそうだ。

ひらがなやカタカナのような、ほとんどの文字が母音と子音の組み合わせになっているものは当然アルファベットとは言わないが、ギリシア文字やキリル文字ヘブライ文字アラビア文字は「アルファベット」なのだ。ラテン文字だけがアルファベットではないのだ

他にも、「時間の捉え方である時制(テンス)と、場面の捉え方である完了、進行、開始、終了など(アスペクト)について」「『空気を読む』会話(「これから晩ごはん食べに行かない?」「今給料日前なんだよね」みたいな、ストレートな言葉では表さないがちゃんと通じる会話)について」など、どれも面白い。

ところで、私が一番この本で好きだ!と思ったのは、最終章「浪漫主義言語学への招待」の中の、次の一節である。

言語を学んだり調べたりすることは喜びに満ち溢れている。ところが喜びについてはどの言語学でも認められていない。どうして喜びを隠さなければならないのか。わたしには分からない。激しい論争を通して解釈の妥当性を高めることだけが、科学ではないはずだ。いっしょに楽しんだり、面白がったり、あるいは行き詰まったときに救いの手を差し伸べてくれるような、そういう言語学を追い求めてみてもいいのではないか。

著者の語学愛、言語学愛が感じられる。