チェ・ミンシクを見るといつもゴンチチのゴンザレス三上さんを思い出してしまう。なんとなく似てないだろうか。似てないか。
それはさておき、この映画でチェ・ミンシクが演じる主役の元税関職員チェ・イクヒョンは、見栄っ張りでプライドばかりが高く、格下だと思っている相手には横柄に威張り散らし、格上の相手には恥ずかしげもなく愛想を振りまき媚びへつらう男である。見ているほうが呆れてしまうようなキャラクターだ。
その様子は滑稽ですらあるのだが、同時にうっすらとした狂気をはらんでいるようにも見える。これはやっぱりチェ・ミンシクが演じているせいなのだろうか。
映画自体はよくある韓国バイオレンス系である。すなわち、公務員も政治家もヤクザも皆さんズブズブというやつだ。過剰な暴力描写もお約束である。検察も竹刀持ってるし。
韓国では目上・目下といった上下関係に厳しいということは、こういったエンタメから仕入れたレベルの知識ではあるものの、一応知っている。しかしそれ以外にも「氏族」が同じがどうかということが非常に重要視されるということがわかった。
同じ姓の中でも、共通の始祖を持つとする氏族集団(門中、本貫)に分かれている。本貫とはもともと始祖に所縁の地を表示するもので、氏族を示す際には「金海金氏」「安東金氏」などと本貫を共に名乗るのが一般的である。(wikipedia 朝鮮人の姓の一覧)
イクヒョンは自分と氏族が同じである年下のヤクザのボス、ヒョンベと手を組み、裏社会に足を踏み入れる。そのヒョンべとイクヒョンの関係性に本当に驚いた。
親戚かつ年上というだけの理由であそこまで偉そうに振る舞うイクヒョンも、それを甘んじて受け入れるヒョンべも個人的には「理解できない」と思ったが、こういう関係は、実際に韓国ではリアルなのだろうか。
最終的に二人の関係は、イクヒョンの裏切りで幕を閉じる。前半、ヒョンべがイクヒョンに「信頼した相手にいつも裏切られる」というような話をするシーンがあり、これはあまりにもわかりやすいフラグではないだろうかと思ったらやっぱりそうだったので拍子抜けした。
こう言うとなんだかつまらない映画のようだが、実際には十分楽しめた。2時間超の作品だが途中で退屈することもなく一気に見たし。
イクヒョンには、人間のドロドロした部分をかなり濃厚に煮詰めた感じがある。表には出さない内面の暗さ、陰湿さ、狡猾さ、「本当は俺はもっとすごい人間なんだ」という自己認識。フィクションのキャラクターには「客観的には駄目なんだけどなんか憎めない」というタイプが多々あるが、そういった雰囲気はイクヒョンには微塵もない。これってチェ・ミンシクが演じたからだろうか。他の俳優だったら? 例えば、ソン・ガンホが演じていたらどうだろうか。いや、ソン・ガンホだとどうしても憎めない感が出てしまいそう。
あまり韓国の俳優を知らないので比較対象がソン・ガンホだけっていうのが説得力がないがしかし、「オールド・ボーイ」でもそうだったけど、チェ・ミンシクにはなんというか形容しがたい暗さ、闇みたいなものがあるように思う。それがイクヒョンという役にしっかりとはまっていたのではないか。
ヒョンべを演じるハ・ジョンウも良かったが、彼はなんといっても「哀しき獣」が最高だった。「哀しき獣」もう一回見ようかな。